第12話 - 「霧の中の街」
ゾンビは足を引きずりながら、ゆっくりと近づいてくる。
その目は焦点が定まらず、口からはよだれが垂れ落ちていた。異様な腐敗臭が風に乗って鼻を突く。
「ツヨシ、気をつけて!動きは遅いけど、力は強いかもしれないわ!」
ティナが叫びながら、シロを後ろへ下がらせる。ツヨシはハンマーをしっかりと握り、慎重にゾンビとの距離を測った。
「ゾンビの動きが遅いから、対抗できそうだ」
そう呟いた瞬間、近くのゾンビがツヨシにつかみかかってきた。
「うおっ!」
ツヨシはハンマーを横に振り、迫り来る腕を叩き落とした。
鈍い音が響き、ゾンビの腕が不自然な角度で曲がる。
それでも動きを止めることなく、ゾンビは体当たりを仕掛けてきた。
「しぶといな…!」
息を切らしながら、ツヨシはハンマーを振り上げ、ゾンビの頭を思い切り叩きつけた。
骨が砕ける音が響き、ゾンビはその場に崩れ落ちた。
「1体だけじゃないみたい…!」
ティナが震える声で言った。霧の中からさらに2体のゾンビが姿を現し、その背後にも影が揺れている。
「思った以上にヤバいかもな。」
ツヨシは汗を拭いながら、もう一度ハンマーを構え直した。
ティナはシロを抱き寄せながら、小声で呟いた。
「ツヨシ、無理はしないで。私も少し援護するわ」
ティナが手をかざし、小さな魔法陣を展開した。
ティナの魔法は攻撃向きではないが、ツヨシの動きを援護する程度の光を放った。
「目を眩ませるほどじゃないけど、少しでも牽制になるといいわ」
ゾンビたちは次々と近づいてくる。ツヨシは1体目のゾンビにハンマーを振り下ろし、即座に後ろを振り返った。
ティナの光に一瞬怯んだ2体目のゾンビに対し、ハンマーの横薙ぎで頭部を粉砕した。
「残りは1体…!ティナ、シロをしっかり守ってやってくれ!」
ツヨシは叫びながら最後のゾンビに突進し、足元を狙ってハンマーを振り下ろした。
ゾンビは倒れたが、上体だけでこちらに這い寄ろうとしてくる。
「往生際が悪いな!」
ツヨシは最後の力を振り絞り、ゾンビの頭を叩き潰した。
静寂が戻り、霧の中には再び不気味な静けさが広がった。
「ふう…。これで全部倒したみたいだな。」
ツヨシは荒い息を整えながら、地面にハンマーをついた。シロが彼の足元に寄り添い、低く唸っていた。
「まだ緊張が解けない…。この霧の中、何が潜んでいるかわからないわ。」
ティナはツヨシを見つめ、不安げに言った。ツヨシはティナの肩に手を置き、優しく微笑んだ。
「大丈夫だ。何が来ても俺たちで何とかする。シロだって、俺たちを守ろうとしてくれてるんだしな。」
その言葉にティナは少しだけ安心し、シロの頭を撫でた。
「ありがとう、シロ」
しばらく進むと、霧の向こうに、わずかに大きな影が見えた。
ツヨシが目を凝らすと、それは瓦礫ではなく、立派な建物が立ち並ぶ街だった。
通りには人影が見え、建物からは明かりが漏れている。
「ここなら、ちゃんと休めそうね」
ティナが呟く。街は一見、平穏を保っているように見えたが、その静けさにどこか違和感がある。
ツヨシは眉をひそめ、周囲を警戒しながら言った。
「でも、何かあるかもしれない。油断しないで進もう」
ツヨシはハンマーを握り直し、シロとティナを守るように前に立って歩き始めた。
すると、路地の暗がりから多数のうごめく影が現れ始めた。
「これは…大量のゾンビじゃない…!?」
ティナが震える声で言った。
ツヨシは周囲を素早く見回し、ハンマーを構え直した。
「まずいぞ、ティナ。退路を確認しながら、近場の安全そうな場所を探せ!」
ゾンビたちはゆっくりとした足取りで彼らに迫り、街全体が不穏なうごめきに包まれていく。
「くそっ…本格的にやばくなってきたな」
ツヨシは冷静を装いながらも、内心の焦りを抑えられなかった。
街の明かりが徐々にゾンビたちの影に覆われていく中、彼らの冒険は新たな局面を迎えようとしていた。
(続く)