第11話 - 「シロとの出会い」
扉を抜けた瞬間、冷たい風が二人の頬を打った。目の前には、どこまでも広がる荒野だった。
乾いた地面には無数の亀裂が走り、所々に黒ずんだ瓦礫が転がっている。
だが、それ以上に不気味なのは、あたりを覆う濃い霧だった。
「…気味が悪いわね。」
ティナが呟く。
視界はわずか数メートル先までしか見えず、霧の中から何かが現れそうな気配がする。
霧が立ち込める荒野を、ツヨシとティナは慎重に歩いていた。異次元の世界に来てから、目指す街は未だ見えない。
昼間だというのに、どんよりと曇った空のせいで、周囲はまるで夕暮れ時のような薄暗さだ。
「ツヨシ、このまま進んで本当に大丈夫?」
ティナが少し不安げに声をかける。
「進むしかないだろう。昼間はカメラのフラッシュが効かないからな、気を付けないと。」
その時、どこか遠くから微かな鳴き声が聞こえた。
「キュー…キュー…」という高い声だ。ティナが足を止め、耳を澄ませる。
「今の聞こえた?」
「ああ、どこか近くにいるみたいだな。」
ツヨシは声のする方向に目を凝らし、霧の中で慎重に歩み寄った。
「なんだ、犬か…。ずいぶん白くてふわふわしてるけど。」
ツヨシが瓦礫に挟まった動物を見て、ぽつりと呟いた。
ティナは首をかしげながら近づき、小声で話しかけた。
「なんだか少し違うような気もするけど…。かわいいわね。」
やせ細った体で瓦礫の隙間に挟まるようにして横たわり、右前足に大きな傷を負っている。
犬はツヨシとティナをじっと見つめ、かすかな声で鳴き続けていた。
「怪我してる…。ずいぶん衰弱してるみたい。」
ティナがそっとつぶやく。
「でも、少し怯えてるな。」
ツヨシは犬に手を伸ばそうとしたが、犬は唸り声を上げて彼を威嚇した。
「傷が痛むんだろうね。ちょっと待ってて。」
ティナがゆっくりと犬に近づき、優しく話しかけながら小さな魔法陣を展開した。
回復魔法が犬の体に光の粒を降らせると、犬は驚きつつも徐々に痛みが和らいでいった。
「どうだろう?痛みは引いたかな?」
ツヨシが優しく声をかけると、犬はその場に体を丸めた。
「この子、ありがとうって言ってるみたい。」
ティナが微笑みながら言うと、犬は短いしっぽを左右にわずかに動かし、のそのそとツヨシに寄り添った。
「これからついてきたいってことか?」
ツヨシは軽く笑い、犬の頭を撫でた。犬は嬉しそうに、ツヨシに寄り添った。
「名前をつけてあげたらどう?可愛い顔してるし。」
ティナが提案する。
「そうだな。白いから『シロ』でどうだ?」
ツヨシが言うと、犬は満足そうに、短いしっぽを少し振った。
「シロね。いい名前だわ。」
ティナが笑い、三人は再び前へと進み始めた。
瓦礫を越えた先は、さらに霧が深くなり、周囲の音が一層不気味に感じられるようになった。
遠くから風が吹き抜ける音が聞こえ、枯れた草がカサカサと音を立てる。
「この先、街があるはずなんだけど…。なんだか嫌な予感がする。」
ティナが呟き、シロも低く唸り始める。
「何かを察知したのか…?」
ツヨシが警戒しながら足を止める。シロは耳をぴくぴくと動かしながら霧の向こうをじっと見つめていた。
ティナは、息を詰めながらツヨシの背中に一歩近づいた。
「何か来る…気をつけて。」
そのとき、不気味な臭いが漂ってきた。ツヨシはハンマーを構え、目を凝らしていた。
すると、霧の中から、ゆらゆらと動く影が現れた。
「なんだ…?」
ツヨシがつぶやく。影は徐々に形を明確にしていく。
やがて、腐敗した人間のような姿が現れた。肌は黒ずみ、部分的に剥がれ落ちている。目は虚ろで、まるで生気が全く感じられない。
シロは、ゾンビの方に向かって低く唸った。ゾンビはその声に反応するかのように頭をこちらに向け、ゆっくりと足を引きずりながら近づいてくる。
「くそっ…。カメラのフラッシュが使えないとなると、ハンマーでやるしかないな。」
ツヨシはハンマーを握り直し、ゾンビに向かって歩を進めた。
(続く)