第29話 - 「心の扉」
アンドロイドがツヨシとティナを羽交い絞めにして捉え、逃げる術はなかった。
周囲には無機質な壁が立ち並び、機械音が不気味に響く空間だった。
冷たい金属の床に押し付けられた二人は、恐怖と絶望に包まれ、心の中でどうにかこの状況を打破しようと必死に考えながらも、冷静さを保とうとしていた。
「くそっ…!」
ツヨシは悔しさを噛みしめ、怒りを抑えていた。彼の心の中では、さまざまな思考が渦巻いている。
隣でティナは不安げな表情でツヨシを見つめ、その目には恐怖の色が浮かんでいた。
「ツヨシ…」
彼女の声は震えていた。ツヨシはティナに向かって微笑んだが、その表情には不安が隠せなかった。
彼は彼女を安心させるために必死に努めていたが、心の奥底では恐怖が広がっていた。
「…大丈夫だ、ティナ。きっと何とかなる」
その言葉を口にしたものの、彼の心には逃げられない恐怖が広がっていた。
エミリアは冷酷な微笑みを浮かべ、二人に近づいてきた。彼女の姿は、かつての友人とはまるで別人のようだった。
「このまま改造室に連行します。安心してください、アンドロイド化の苦痛はありませんから」
その言葉には冷たい響きが込められていた。
ツヨシはエミリアに向かって叫んだ。
「エミリア、なぜこんなことをするんだ!僕たちは…君を信じていたのに…!」
彼の声には裏切られた悲しみと怒りが混ざっていた。
エミリアはツヨシの言葉に耳を貸さず、過去の思い出が彼女の心に渦巻いているのかもしれない。
「あなたたちにとっても、良いことなんですよ。無料でアンドロイドになれるんですから…」
その言葉には、どこか計算された冷酷さが感じられた。ツヨシは諦めずにエミリアに語りかけた。
「エミリア、思い出してくれ!君もかつては人間だった…人間だった頃の君なら、こんなことはしなかったはずだ…!
それに、君の恋人も、こんなことは望んでいないはずだ…!」
ツヨシの言葉がエミリアの心に突き刺さった。その瞬間、彼女の心の中にかつての恋人の姿が浮かんだ…。
楽しい日々、会話、そして悲しい別れ…。さまざまな過去が、エミリアの頭に浮かんだ。
「…僕はアンドロイドには絶対になりたくない。人間でいたい…」
かつての恋人の言葉が、エミリアの頭によみがえった。
彼女は一瞬、顔を歪め、その表情に葛藤が浮かんだ。
そして、彼女はゆっくりと口を開いた。
「…私は…私は…」
エミリアの目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「…私は…寂しかった…仲間が欲しかった…だから…あなたたちを…騙して…ごめんなさい…」
エミリアは、自らの行いを悔い、ツヨシとティナに謝罪した。
彼女の言葉には心からの後悔がこもっていた。彼女が抱えていた孤独感が、今ここに現れたのだ。
ツヨシとティナは、エミリアの涙を見て、彼女の苦しみを理解した。
彼らの心の中に、少しずつ共感が芽生えていく。エミリアの心の痛みを共有することで、彼らは新たな絆を感じ始めていた。
「エミリア…」
ティナは優しく声をかけた。
「エミリアは、寂しかったんだね…」
その言葉に、エミリアは少しだけ心を和らげた。彼女の心にあった孤独感が、少しだけ軽くなったかのように感じた。
周囲の無機質な壁が、彼女たちの心をさらに閉ざすのではなく、逆に彼女たちの間に新たな絆を生む可能性を秘めていることに、誰もが気づいていなかった。
彼女たちの間に流れる感情が、未来への希望の光となることを願っていた。
(続く)